菌根メーリングリスト有志からのコメント


菌根菌と放射性物質について

この度の大地震で亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。

2011年3月11日に発生した東日本大震災に端を発した福島第一原子力発電所の放射能漏れ事故により、広範囲への放射性物質の拡散が確認されている。影響を受けた地域で生産された野菜等の出荷制限がなされるなど、既に農産物・食品にも広範囲への影響が出始めている。文部科学省が公表している情報からも、今後も予断を許さない状況が続くと思われる。さらに4月4日には放射性物質に汚染された水の海洋放出が開始され、海洋生態系への影響も懸念されている。

1986年に発生した旧ソビエト連邦(現ウクライナ共和国)のチェルノブイリ原発の炉心火災に伴い大量の放射性物質が広域に飛散した結果、原発周辺のみならず、1000km以上離れたスウェーデンでも深刻な高レベルの土壌放射能汚染を生じた地域があり、それから20年以上を経過した時点でも高濃度の土壌汚染は続いている。放出された放射性核種中でも137Csの半減期は30.2年であることから、現在も継続的な調査研究が行われている(Mascanzoni 2009)。

きのこ類には137Csをはじめ、放射性物質を蓄積しやすいものがあり、とりわけチェリノブイリ事故の影響を受けた地域で採取されたきのこ類(特に菌根性きのこ)からは、日本の食品衛生法の暫定基準を大幅に超える137Csが検出されて輸入禁止となった例がある。ただし、栽培きのこか野生きのこか、さらに前者では施設栽培か露地栽培かによって、放射能汚染の程度が大きく異なる。そのため、冷静な対応が強く求められる。

今後、きのこ生産が直面する風評被害を最大限食い止めるとともに、消費者に安全で安心なきのこ類を届けるためには、放射性物質による汚染状況を正確に把握し、科学的に安全な範囲をしっかりと定めていく必要がある。放射性物質のきのこへの影響の把握は緊急を要するため、今回一報として、2008年に公表された過去の知見を集約した情報を提示する(Duff & Ramsey 2008)。今後、最近の情報を追加していく予定である。

被災地の復興,災害に遭われた方々の1日も早い回復を願います。

Accumulation of radiocesium by mushrooms in the environment: a literature review
Duff MC, Ramsey ML (2008) J Environ Radioact 99: 912-932

文中引用:Long-term transfer of 137Cs from soil to mushrooms in a semi-natural environment
Mascanzoni D (2009) J Radioanal Nucl Chem 282:427-431

Duff & Ramsey 2008より引用したチェルノブイリ事故後にきのこから検出された放射性セシウムのデータ(有志により日本語化されたPDFファイル)


2011年04月11日公開
2011年04月12日更新
2011年04月14日データを追加

本ページの内容は農林水産省の見解などとは関わりありません。

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