表記ワークショップが2023年9月19日(火)から20日(水)にかけて開催されました.両日とも三重大学生物資源学部の実験室の一角で実施されました.2022年3月に信州大学農学部で開催されたワークショップ(外生菌根の観察法)に続き,2回目の企画です.今回は,アーバスキュラー菌根およびアーバスキュラー菌根菌の扱い,顕微鏡観察法を行いました(表1).実習の講師として当該分野に造詣の深い,佐藤 匠 先生(ナガセケムテックス株式会社),大和政秀 先生(千葉大学)をお迎えして,18名の参加者が実験に勤しみました.参加者の内訳は,学部3年生でこれから研究を進める若い層から,他の菌根タイプや他分野で活躍するベテランの方まで幅広く,関東圏から遠くは九州圏からお越しいただきました.
1日目は講師陣からの講演ののちに,実体顕微鏡を取り出して,胞子を眺めてもらう作業を行いました.佐藤先生に事前に準備してもらった土壌試料を用いて,参加者は開き目サイズの異なる篩を用いて土壌を洗い流し,実際に様々な大きさや色の胞子を見つけて歓喜を挙げていました.初めてアーバスキュラー菌根菌の観察に挑戦する方,顕微鏡の扱いが不慣れな方もおみえでしたが,講師陣からの声がけ,研究経験が豊富な参加者からのアドバイスもあり,うまく観察できていたようです.その後,参加者の熱心な観察や講師の熱のこもった解説で,根の染色をしたもののその観察まで至らず,1日目は終了しました.その後に,夜の情報交換会に突入しました.新型コロナウイルス感染者は依然として無視できない状況にありますが,同感染症の5類への移行もあったので,交換会はコロナ禍以前のような形での開催としました.若手やベテランが実習中では聞けなかったことを相互に聞き入る活発な情報交換会となりました.足掛け3年ほどの感染症の影響のために行動規制の中を過ごしてきたこともあり,修士以下の学生さんにとっては,他機関,他大学の方との対面はもとより,こうした交換会の立ち位置に戸惑いを見せる方もいましたが,博士課程のベテラン学生,若手教員が会話の輪にうまく取り込んでくれていました.
翌日は開始30分前にもかかわらず,多くの参加者が既に顕微鏡観察のために実験室でスタンバイしてくださいました.昨日に染色した根を丁寧にスライドガラスの上に配置し,光学顕微鏡を取り出して樹枝状体や嚢状体などアーバスキュラー菌根菌の根内構造物を観察しました.今回,大学の機材の都合上,写真撮影の機器を準備することができませんでしたが,果敢にも接眼レンズに携帯電話をあてて撮影を試みる猛者もおみえでした.観察ではどのように見るのか,見たものをどのように記憶,記録に留めるのか,研究者の創意工夫の現場を垣間みることができました.その後,佐藤先生による毛状根の解説と実演をしていただき,参加者が実演する実験台の周囲に集まり,その様子を固唾をのんで見入りました.毛状根の実習は参加者にも体験いただきたかったのですが(私も),本技術を活用する研究者が限られること,時間的制約もあることから,最先端の技術共有は目指すものの,実験作業の流れをお示しするのみといたしました.次回以降で,本技術を体験できる場があってもよいと思います.この実演に限らず,参加者は片手に携えたノートに詳細なメモを書き留めたり,講師陣を質問攻めにしたりしていました.大学の自習や講義とは全く違う,自発的な学びの風景が目の前に広がり,心底うれしく思い,本会を開催してよかったと感じました.
本会の最後には,次回以降の開催の参考とするため,参加者に簡単なアンケートのお願いをしました.回答いただいた内容は幹事一同で共有し,より良い研究会の運営,企画立案の一助といたします.皆様からのご要望も随時承っておりますので,ぜひともお声をお寄せください.
ワークショップ世話人代表:松田陽介(三重大学)
表 ワークショップ進行項目
1日目(9月19日)
13:00 開会挨拶
13:10-13:40 特別講演「アーバスキュラー菌根菌の分類と生態」 大和政秀 先生(千葉大学)
13:40-14:10 特別講演「アーバスキュラー菌根菌の利用と実験方法」 佐藤 匠 先生(ナガセケムテックス株式会社)
(休 憩)
14:20-17:00 実習操作
・土壌からの胞子の抽出,根の染色法,観察法
18:00 情報交換会(大学生協)
2日目(9月20日)
9:00-12:00 実習操作の続き(順次散会)
・トラップ培養,ポット培養,毛状根培養系の観察,継代培養法
12:05 閉会挨拶
ワークショップ中のスナップ写真